浜辺の診療室から

脳の衰えと機能   認知症をめぐって(その13)

悠然と泳いでいた姿をじかに見たこともないのに、砂浜に乗り上げたクジラを指さして、

「 クジラとは位置確認できない生命体 」 であると、あなたは評価しますか?

活き活きと暮らしていた姿をじかに見たこともないのに、目の前にいる老いびとを指さして、

「 認知症を抱えた老人は、社会で生きていけない生命体 」であると、あなたは評価しますか?

そんな話をしたら、次のように語った人がいました。

 

クジラの位置確認装置は劣化していないから、もっともな環境に移せば、ふたたび機能する。

だからこそ、人海戦術によって救出されたクジラは、反響定位を駆使して、また大海原を回遊する。

でも認知症の脳機能は劣化している。だから、もっともな環境に移したところで、もはや機能しない。

 

わたしは、考え込みました。そこで、まず問うてみたのです。

認知症の脳機能は劣化しているから……と、脳の衰えをひとことで語るのは可能でしょうか。

 

クジラの装置は、位置確認をするという単一機能です。

それに対してヒトの脳は、計算、記憶にはじまり、思考、言語、学習など多くの機能を持っています。

であれば、あらゆる脳の機能が一律かつ均等に変動しない限り、総合評価はできないはずです。

機能とは、何に対する機能をみようとしているのかが明示されなければ、評価できないからです。

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