浜辺の診療室から

もう必要とされない……     老いびとのこころ(その4)

「退職後に最も辛かったことと言えば、
もはや誰も私を必要としていないという事実を実感したことです。
長年にわたって蓄積してきた知識や能力は、
もはや何に活用することもできませんでした。
電話をかけてきて助言を求める人もいません」 
 
「仕事上の『友人』はいなくなってしまいましたし、
集まりへの招待も来なくなりました。
今は葬儀がある時だけ知らせがきますが、
それは私が必要としているものではありません」  
 
誰とも会うことがなく、誰と話すのでもなく、
それでも世のなかは回っていることを、老いびとは知る。 
 
かつてはよかった。
仕事を頼みにくる相手がいたし、
ここを教えてくれませんかと訊いてきた若者もいた。
教えれば、教えただけの反応があった。
誇れるほどの業績は残せなかったが、
そんじょそこらの若者には負けないノウハウくらい持っていると、
老いびとは密かに思っている。 
 
もはや人は、自分を必要としていないのか。
いてもいなくても、自分は誰にとっても関係ない存在になり下がったか。
そういえば、……最も悲惨なことは飢餓でも病気でもない、
自分が誰からも愛されていないと感じることですと、
マザー・テレサがいってたっけ。 
 
やはり旧友と連絡を取ってみようと、老いびとは電話帳を引っ張り出す。
 

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