浜辺の診療室から

自らの死を予感する     老いびとのこころ(その5)

「電話帳で古い友人を探したことがありますが、
みんな亡くなってしまったようで、
一人として残っていませんでした。
私は大好きだった人をたくさん失ってしまい、
無人島に取り残されたような気分になりました」  
 
どこかに元気な老人はいないかと、老いびとは思う。
初対面であっても、
そんな人がいたら、ぜひ訊いてみたいことがある。
老い先の不安はないのか、日々どうやって暮らしているのか、
退屈ではないか、うきうきすることはあるのか、
怒りはないか、むなしいと思うことはないか……。 
 
せめて旧友は自分と似たような悩みや痛みを持っていて欲しいと、
老いびとは願う。
けれども、どうにもならないことを知る。
ひとりとして連絡がつかないからだ。
いや、連絡がつかないだけで、
転居して娘さん家族と暮らしているのかもしれない。
自活できなくなって、高齢者収容施設に入っている人もいるだろう。
そうなら会っても、おれのことを思い出せないかもしれない。 
 
あて先不明で返ってくる年賀状が、毎年数枚ずつ増えていき、
いまではこちらも出さなくなった。
知人友人の多くは、死んでしまったのだろう。 
 
空気を吸い、飯を食べ排泄するだけの装置。
何を頼りに生きればいいのかと、
老いびとは、鏡に映った己の顔をじっとみる。
ki67/24

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