浜辺の診療室から

生命のゆくえ     死と向き合うこころ(その5)

敬愛している医師の話をしよう。
歌人でもあった上田三四二さんだ。
死後の世界はないと思っていた上田さんは、
晩年の著書にこう記している。 
 
現世という可視光線の場に立てば――
それが身体をもって生きることのありようだが、
赤外線とその外、紫外線とその外という前後の波動は厚く深い闇であり、
現世はそういう底しれぬ闇から差し出された、
ごく小さな、光る露頭にほかならない。
無限の闇の、たまたま光る微小部分が現世であり、
生命界だと言える。 
 
私はこんな妄想を抱く。
世界はすべて波動より成り、
人間は――生命は、赤外線の側より送りとどけられて
現世たる可視光線界にとどまり、
やがて紫外線の側に抜けて行く。
それが人間の一生であり、生命のサイクルなのだと。
『死に臨む態度』(春秋社版 1993年)から  
 

大正12年生まれの上田さんは、42歳のとき結腸ガンの手術を受けた。
当時、ガンはそのまま死を意味する時代だった。
術後10年の月日が経ったとき、また新たなガンが前立腺にみつかった。
昭和597月から治療を開始し、
平成元年1月、65歳の生涯を閉じた。 
 
20年以上も、死と向き合いながら生きた人の死生観だからかもしれない。
上田さんの妄想は、すとんと胸に落ちる。 

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