浜辺の診療室から

苦痛 慰し 救い 感謝     死と向き合うこころ(その7)

「あなたがたの多くは臨床医をめざすだろうから、痛みのわかる人間であってほしい。
最後に餞別として、詩をひとつ送らせていただく」
といって最終講義で「おおみそか」という詩を朗読してくれたのは、
免疫学をわたしたち学生に教えてくれた清水不二雄先生だった。
詩は、病のため44歳で永眠した解剖学者・細川宏さんによって書かれた。
およ35年前、恩師が朗読した「おおみそか」を、ここに供覧しよう。 
 
一九六六年 
君は僕に激しい肉体的苦痛と
いいしれぬ精神的苦痛
その他さまざまな致命的傷痕をのこしたまま
今去っていこうとしている 
 
しかし同時に
君は実に貴重なものの数々を
この僕に教えてくれた
肉身や友人知人の数知れぬあたたかい情けはもとより
苦痛そのものの中に働く不思議な慰(いや)しと救いの心の働きや
人間のいのちの尊さとその無限の奥深さ
その他もろもろのことを
おぼろげながら僕に
教えてくれたのは君だ 
 
僕は君をうらむべきか
それともお礼を言うべきか
今の僕には何ともいえない 
 
ただあれを思い これを思い
とめどもなく流れ出る涙のままに
人知れぬ静かな孤独の一刻を
去り行く君は僕を
そっと見逃してくれたまえ
『詩集 病者・花』(現代社版 1977年)

hana/yuri8/18

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