浜辺の診療室から

笹と木の葉(2)    本日休診その1

本を閉じて現実の世界に戻ると、本に書かれていた世界との落差を感ずる。
落差は時間差だったり、ものの考え方の差だったり、時代性だったり。
回想しつつ思ったのは、まず字が小さいこと。
昔の本は、いま買って読める新刊の文庫本より読みづらい。
 
 笹が鳴る音をイメージしていたら、以前住んでいた家の竹林を思い出した。
若竹の伸びる早さに驚いた覚えがある。
昨日まで見えなかった竹の先っぽが、ベランダ越しに見えた。
そこで柵に印を付けて、尖端の高さを翌日計ってみたところ、
一日で15センチちかく伸びていた。
先っぽからは透明のしずくがぽたぽた落ちていた。 
 
木の葉の部分では『葉っぱのフレディ』を思い出し、
アポトーシスという単語も頭に浮かんだ。
葉の消滅はプログラムされている。消滅は死であり、
アポトーシスは個体の維持に欠かせない積極的な死と説明される。
だから死は哀しいことでなく、次世代へのバトンタッチなのだ――と、
意味をつけるのは、いつも人間だ。 
 
そして“ボケ”。
ボケや痴呆といった表現はいま、あまり使われない。
差別的表現として認知症と呼ぶよう厚生労働省が提案したのは2004年のこと。
それでも痴呆症やボケといった表現のほうが理解しやすい
との理由から、旧来の呼称を使い続ける医師もいる。
いまという時代、こうした表現を積極的に使うには勇気がいるようになった。
不適切とされる用語が増えたぶん、表現するにも気を使う時代になったということだろう。 
 
千代さんのいうボケや、いまでいう認知症が、
強く思い込むことで避けられるものでないことは、
多くの人が知っている。
だとしても、……それはそれでいいではないか。
本を読むと、つい自分の価値観や、生きてきた歴史を重ねてしまう。
けれど本を閉じたところで、思考の上澄みだけを眺めてみよう。
静かに眺めたのちに流れ去ってしまうものなら、追わずともよいのではないか。
 
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