浜辺の診療室から

虚空 風の音 戯れ 災いと福    本日休診その3-②

風の音 
 
詩人天野忠は1909年生まれである。
風の音という詩をご紹介する。 
 
八十六歳のおやじが
ありがと ありがと と言って
かすかにうなずいて死んで行ったよ…… 
 
遠い電話の友の声が
そこでふっつり消えた。
福原郡奥入山の
常光妙寺の
奥の座敷のふすま絵が
いまぼおーっと見える。

かすかにうなずいて というのは
まだ消えない
かすかにうなずいては
私の眼の奥で
まだかすかにうなずいたまま…… 
 
ありがと とかすかにうなずいて
八十六歳の老師が死に
八十六歳が消え
ありがと が消え
私の眼の奥の
かすかにうなずく も消え
……
いま
見えているのは
常光妙寺の奥の座敷の
古ぼけたふすま絵の
あの
ぼんやりした風の音ばかり。 

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