浜辺の診療室から

高齢者のベクトル合わせ  本日休診その4

医学生のとき学ぶ用語のひとつに、コンプロマイズド・ホストがある。
邦語を「易感染宿主」といい、通常では感染しない弱毒菌に対して容易に感染し、症状や
臓器障害が起こりやすい人をいう。
容易に感染する理由は免疫力の低下。高齢者、膠原病や後天性免疫不全症候群(AIDS)など
免疫疾患のある人、白血病など血液疾患のある人、固形ガンのある人などが該当する。
 
 本来の力が10だとして、それが32になっているときは「低下状態」と呼ばれるが、
免疫力や自然治癒力は単なる数値として表示できない。
免疫力や自然治癒力には「正しい方向を向いているか」が問われるためである。
正しい方向を向いていなければ、どれほど力が大きくても効果は望めない。
たとえば新型インフルエンザのときに話題になった用語にサイトカイン・ストームがある。
免疫担当細胞同士の間で飛び交う細胞間連絡物質(サイトカイン)が、嵐(ストーム)の
ようにあちらこちらで氾濫している状態――それがサイトカイン・ストームである。
免疫担当細胞はフル稼働し、宿主も免疫力や自然治癒力を持ち備えて人であるのに、
重症化して死亡するといわれる。
このとき免疫力は無方向に分散し、集約されることはない。
 
だから免疫力や自然治癒力を理解するには“ベクトル”の考え方が便利だ。
ベクトルは「向き」と「大きさ」を持っている。免疫システムが正しい方向を向き、
それ相応の大きさを持っているとき、免疫力は「ある」と評価できる。
向きか、大きさか、またはそのいずれもが正しくなく不十分であれば、免疫力は
「ない~著しく低下している」と評価される。
 
 
 さて、高齢者には“やせ”や廃用症候群に伴い、筋肉の総量が落ちているケースがあり、
サルコペニアと呼ばれるようになった。栄養状態不良の寝たきり高齢者が代表である。
肉・筋肉を意味するギリシャ語のサルコと、減少・消失を意味するペニアを結びつけた
サルコペニアは
1989年に提唱されたから、コンプロマイズド・ホストより新しい医学用語である。

高齢者の終末期医療を考えるとき、これからは認知症やガンのみならず、寝たきりや
コンプロマイズド・ホスト、サルコペニアといった病態を施設でも理解し、認識を共有する
必要が出てきた――。

<< 高齢者のベクトル合わせ(2)  本日休診その4   虚空 風の音 戯れ 災いと福    本日休診その3-② >>

お電話番号でのお問い合わせ 0465-64-1700 メールでのお問い合わせ

お問い合わせ・資料請求