浜辺の診療室から

私の愛用    本日休診その5

先々週に続き、詩人天野忠の詩を紹介する。 
 
「テスト」  
 
鉛筆を指して
――これは何ですか と医者がたずねている。
――エンピツです。
見るからに気の良さそうな
七十八歳の老人が答える。
掌の上に煙草をのせて
―では、
  
    これは何ですか ときく。
花咲爺さんみたいな顔をして
しばらく思案してから
呆け老人は答える。
――エンピツです。
 
 さっき見たテレビの医者そっくりの口調で
――これは何ですか と古女房がたずねる。
――それは私の愛用の湯呑みです。
――では、と自分の顔を指して
  
  この人は誰ですか ときく。
花咲爺さんみたいな顔をして
しばらく思案してからハイ、と私が答える。
――それは私の愛用のおばあさんです……。  
 
収載されている『続天野忠詩集』は、1986618日に第一刷が刊行されている。
発刊がいまから30年前だから、詩はそれより前に作られた。
認知症を評価するテストとして有名なのは、改訂長谷川式簡易知能評価スケール。
改訂される前のバージョンは、精神科医長谷川和夫によって1974年に作成された。 
 
詩にあるエンピツと煙草は、5
品目を見せる部分で登場する。
改訂長谷川式を説明した1991年資料にある5品目は、時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨。
そののち5品目は、ハサミ、腕時計、エンピツ、クシ(櫛)、さじ(スプーン)になった。
現在手元にある5品目キットには、腕時計、歯ブラシ、さじ(スプーン)、鍵、エンピツが収まっている。
かつてあった品目から、タバコとペンと硬貨とハサミとクシ(櫛)が消えた。 
 
時代は、ゆっくり動いている。
hasamitabakokusikouka

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