浜辺の診療室から

生命体と森   本日休診その7 

特養(特別養護老人ホーム)では年に何名かが永眠される。
平均年齢が90歳に近いことと、認知症があったり、
進行した疾患を抱えている方が多いためだろう。
 
 生を終えた人間のその後は「ない」と考えていたものの、
赤外線のなかで芽生えた生は、いったん可視光線の世界にとどまり、
やがては紫外線の世界に抜けていくのではないか――。 
 
大きな病をなんども経験し、医師と歌人という二足の草鞋を履き続けた
上田三四二さんは晩年、そう考えるようになった。
見えない世界から見える世界にやってきて、
ふたたび見えない世界に抜けていく“生”とは魂のことか。 
 
祖霊は森に宿るといった思想が日本にはある。
ユング研究で知られる心理学者の河合俊雄さんもこう述べている。 
 
人の住む村や集落は、
森に囲まれた“島”のようなもの。
祭りや儀礼では、神々や祖霊として動物の仮面が登場するが、
そこでは動物の目が強調されている。
目でもって、われわれを見ているのだ。
森と人間との関係に見られる主体は人間でなく、
動物や森こそが主体であるからこそ、かれらは人間の集落を見続ける。
動物の目と魂を借りて、神々や祖霊が宿っている森は、
われわれが死んで帰っていく場所だった――。 
 
水田が近くにあり、森林はずっと遠くにかすんでいる。
だから山紫水明というのは
日本の景色を表現するよいことばだとしながらも、
その後の日本人は、“自然離れ”を起こしている――。
そう語ったのは林学者の北村昌美さん。
心象風景に山紫水明があったとしても、
もはや自然から離れて暮らすようになり、
実際の自然と付き合うことをしなくなったのが現代の日本人だと
北村さんは語っている。
 
ゆるやかな坂が多い湯河原と真鶴に水田はない。
けれども海があり、奥湯河原の先や真鶴半島には豊かな森がある。  

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