浜辺の診療室から

相模原の施設で起きた事件     本日休診その12

2013年から公開しているこのページは、医療部門のHPでなく、
介護福祉部門のHPに収められている。
文章を作成するにあたり、わたしは常にその点を意識してきた。
医師の日常を記すことはせず、健康に関する話題を取り上げることもしない。
起きては立ち消える話題に触れることに意味を見いだせないからだ。
ついでにいえば、
時事問題や社会問題への言及も極力避けてきた。
さまざまな人がそれぞれの場で論ずればよいと思うからである。
 
 しかし今回は例外的に、相模原で起きた事件を扱ってみる。
理由は、介護福祉の現場で起きた社会事件だからであり、
また運営している指定管理者が、社会福祉法人だったからだ。
わたしたち法人も神奈川県・社会福祉法人の末席を汚してはいるが、
やまゆり園を運営している社会福祉法人は30年余の歴史があり、
「神奈川県の指定管理者として4つの県立施設などを運営し……」
との自己紹介文からもわかるように、県内でも大手らしい。 
 
事件の全容がみえてくるにつれ、警察の対応、措置入院をめぐる対応、
介護職員の慢性的不足、低賃金、ケアにあたる人の心労など
事件の動機や、背後にあると思われる問題点を多くの人が指摘するようになった。
しかしわたしは、実行犯のような人物がどのようにして現れたかを重視する。
根底にあったはずの思想と、実行に移すに必要な力を“育てた”環境に、すべてがあると
考えるからだ。
再発防止のカギがあるとすれば、“思想”と“環境”の探索にある――。 
 
まず容疑者が放ったメッセージからは、浄化思想が読み取れる。
自分たち以外の存在を認めず、異物として徹底的に排除する思想である。
容疑者は「やつら」でなく、「やつ」と語った。自分が世界の中心にいるとするかれらの
目に映る異物はおよそ“単一”であり、個々の存在や多様性を認めようとしない。
次に環境の問題。よきことも悪しきことも、人は生まれ持った素因とともに、環境から
影響を受ける。未熟であり歪んでいた考えも、他人と接することで是正されていく。
その人が置かれた生活環境や社会環境が、規範と行動の大半を規定しているといえる。
だとすれば、26歳になる容疑者の規範と行動を規定した“環境”とはなにか。
最後は存在感。人は誰からも認知されず、社会と融合できなければ生きていけない。
金があっても“必要とされている感”がなければ、自己は保てない。
だからこそ働くことが大事になってくる。誰かから必要とされていると感じ、誰かを楽に
していると実感できれば、人はかろうじて自分を保つことができる。
 
 
社会からはじき出され、
しかもそれは自己顕示欲の膨張がもたらした結果であることをどこかで感じつつ、
あともどりできない焦燥のなかで
容疑者は浄化思想を盾に、実行に及んだのではないか。 
 
今後、こうした惨劇をゼロにすることは可能だろうか。
可能だとしたら、わたしたちは何をすればよいのだろう。
京大・吉岡洋さんが2003年に語った
「世界を覆い尽くす“浄化”の思想」より抜粋してみる。 
 
本当の敵は、テロリストでも、アメリカでも、
グローバライゼーションでもない。
本当の敵とは「浄化」の思想であり、
「ヒューマニズム」や「法的正当性」というソフトな衣をまとった
「宗教」的原理主義である。
それが約束する(が決して実現はしない)千年王国、つまり
テロも紛争も差別も貧困もない、平等で平和で安全な楽園という
「視霊者の夢」(カント)から、私たちは今こそ目覚めなければならないのだ。 
 
吉岡さんが「ソフトな衣をまとった」と形容する浄化思想には、
ヒューマニズムつまり人間らしさ、人間第一主義があるようだ。
きれいごとが陳列された浄化の世界は、小競り合いや差別、貧困が根づくだけで、
恒久的平和などあり得ないという。 
 
小競り合いや差別や貧困が根づき始めた現代社会をみると、
わたしたちはソフトな衣をまとい、
きれいごとを並べたような世界に浸っているのかもしれない。
医療や介護や福祉の世界でも、
人権とか、尊厳といった用語を盾に
ヒューマニズムや人間第一主義を謳いながら、
じつは自分中心で、
自分たちの都合を軸に、ものごとを動かしていることはないだろうか。  
 
相模原のニュースをみていたこの数日のあいだにも、
子宮頸がんワクチンの副作用をめぐる報道(集団提訴)や、
職場で虐待を受けた障害者はほぼ倍増の970
といったニュースが並んだ。
弱者と形容される人たちと日ごろ接している者は、
わたしを含め自分たち都合になっていないか
いま一度原点に立ち返り、襟を正す時期が来ている気がする。

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