浜辺の診療室から

「事例」と「ケース」    本日休診その25

介護や看護・医療の世界で、事例発表は日常茶飯です。
同職種が集まった場で発表される事例は、
氏名こそ伏せられるものの、
年齢、性別、バックボーン、あったことなど
そっくりそのままが披露されます。
そっくりそのままだからこそ参考になるのです。
事実はウソをつきません。
だからもしその場に家族がいれば、
「あ、これはウチの祖父だ」などとわかるでしょう。 
 
一方、一般社会に向けられて発信される例は、
あったことがそのままだとしても、
年齢やバックボーンは脚色されることがあります。
いうまでもなくプライバシーの問題があるためです。
あったことまで脚色してしまえばフィクションになりますから、
何をどこまで変えるかを、書き手は考えます。
発信される例は事例というより、ケースと呼ばれるようです。 
 
たとえばガンを抱えた70歳独居の男性Aさんが、
20年以上前に別れた元妻に見守られながら永眠した……
とします。
ある日、有効な治療薬がほとんどないとされる
神経難病を抱えた65歳独居の男性が、
15年前に別れた元妻に見守られながら永眠した
と書かれたケースを読んだAさんのご家族や知人は、
Aさんとは別人であるBさんのことだと思うでしょう。
あるいは膠原病を抱えた62歳独居の女性が、
10年前に別れた元夫に見守られながら永眠した
と書かれたケースを読んだAさんのご家族や知人は、
Aさんとは別のCさんを思い描くでしょう。
BさんもCさんも、じつはAさんから派生したケースだったりします。  
 
書き手は何ゆえ、書くのでしょうか。
自分とは異なる世界に棲む人が、
自分が経験したことのないできごとに直面したとき、
人はえっと驚き、ふーむと感心します。
その経験を書き残すことで、驚きや感心を
他の人たちと共有したいのでしょう。
愛情と憎悪、固執と譲歩、雑念と悟りを乗り越えて、
生き別れた人たちがふたたび寄り添うようになるには、
それぞれの事情があったはずです。
そうした事情を知らされて、
自分自身の生きざまと、重ねてみたいのかもしれません。 
 
こうしたケースレポートは、
自分は変わり者だろうかと悩み、
そうしてみたい気持ちはあるが
本当に許されるだろうかと疑心暗鬼になる人たちに、
一定の安堵を与えます。 
 
ともあれ書く以上は、モデルの許可を得たのち
あらゆる憶測や同情を排除した上で、
細心の気配りが求められます。

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