浜辺の診療室から

本日も休診    本日休診その34

あけましておめでとうございます。
皆さまにとって、よい年になりますように。 
 
年末年始の休診体制が明けた昨日は、
最初の診療日でした。
一日だけ働いたあとの今日は、定例の休診日。
そういえば『本日も休診』(毎日新聞社)という本がありました。
ご存じですか?
著者・見川鯛山(本名見川泰山)さんは、18代続いたお医者さん。
自らを田舎医者と呼ぶ鯛山さんの代表作を引用してみましょう。
ずっと寝起きしていた納屋のなかで、昏々と眠り続ける
93歳の老婆にまつわる話です――。

   
オ辰婆さんはシブトイ婆さんである。
  
あと二、三日の生命だと私が引導を渡してから、
  
もう半月にもなるのに、まだ死なない。
  
私の差しがねで親戚や一族郎党も集めたし、
  
葬式の用意も万端ととのえてしまったのに、
  
早いとこ死んでくれないと、医者として私は本当に困ってしまう
 
(中略)
  
でもヤット、使者がとんで来た。
 
「婆っぱの様子がヘンテコだ、来てくれ」 
  シメたッ!! 私は息を切らして駈けていった。
  そして納屋の戸をガラガラと開けたとき、私はソコで見たのだった!!
  オ辰婆さんが布団の上にキチンと坐り、
 
膳に向かって美味そうにメシを食っている。
 
1本も歯のない肛門のような口をモグモグさせながら……。
  婆さんが云った。
  「オメそこで何ヲしてるだ? 
 
馬頭観音みてぇにポガァと立ってねぇで、こっちさ来ォ。
 
話は聞いたぞイ、俺眠ってる間に世話ンなったそうだが、
 
オメが余計なクスリだの注射だのしネかったオカゲで、
 
俺このとおり達者だワイ、ヒッヒッヒ……」
  いつもの、悪タレ婆アであった。だから私も負けずに云った。
  「バケモノだぞ婆ッぱは!!
 
このぶんだとアト何十年生きるンだか、困ったもンだ」
  オ辰婆さんはその日、食いどおしに食い、
 
駈けつけた人たちをゲラゲラ笑わせ、
 
アレコレ身のまわりのものを整理して、
 
翌日コロッと死んだ。
 
作家・獅子文六さんを師匠と崇めるだけあって、
 
鯛山さんの話は、毒舌のなかにも、
人や命に対する分厚い愛と肯定と、
それを見守る温かい目がありました。
発刊は1974年。
まだ中古で手に入ります。 

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