浜辺の診療室から

小さな町の風景   本日休診その45

『海の見える理髪店』(荻原浩著 直木賞受賞作)の
最初のページには、こんな記述があります。
 
 その理髪店は海辺の小さな町にあった。(中略)
 
 店の中は古びた外観を裏切るたたずまいだった。
 
 こぎれいで、清潔で、整然としている。
 
 作品では、描写のすき間を
 モノローグを交えた店主の語りが
埋めていきます。
 
 先日、となり町を散策するイベントがありました。
 
散策ルートの最後は、廃業した理容店でした。
人口減少の進んだ漁師町の片隅で
最近まで営業していたようです。
荻原さんの描記になぞらえると
店はこんな感じになります。
   
その理容店は海辺の小さな町にあった。
  
店の中は古びた外観を裏切らないたたずまいだった。
  
こぎれいで、清楚で、整然としている。
  
いっさいの音が消えた空間で、
  
洗髪台の横に置かれたアナログ時計が
 
時を刻んでいた。
 
 店内にあったのは、いまでは珍しい手動の理容椅子、
 
はさみや剃刀が収められたショーケース、
 
数種類の砥石とガラス棒温度計、それに手書きの料金表。
ガイドさんの説明によれば、理容店は
大正時代に建てられたとのこと。
 
 『海の見える理髪店』にある店は、
こんな描写でエンディングに向かっていきます。
  
 顔のマッサージを終わって、椅子の背が戻される。
  
 まぶたを開けると、目の前の鏡が輝いていた。 
   水平線に沈もうとしている太陽が映りこんでいるのだ。
 
 椅子の背が倒されたり戻されることは、もはやなくとも
 かつての賑わいを映し、幼少から青年にかけての成長を映し、
 21世紀の静寂さを映している鏡は、
その日も月のように、しっとりと輝いていました。
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