私は毎朝出勤すると、パソコンで入居者の記録を読み、
その後、フロアに行き入居者の方々、夜勤明けの職員、
出勤した職員に挨拶をしてまわります。
毎朝のルーティンワークです。
朝の入居者の方々との会話の中で、
私は様々な人と間違えられます。
「先生、通じがなかなか出ないんです」と
医師と勘違いしている方、
「あんた、就職決まったの?」と
孫か甥っ子と勘違いしている方。
そのたびに私は医師や孫になります。
「違いますよ、施設長ですよ」なんて言いません。
認知症の方はその方が今生きている世界があり、
その世界で私は役割を与えられたのです。
「認知症の方に嘘をつくんですか?」「その人の見当識を正常に戻そうと思わないんですか?」
と思う方もいるかもしれません。
「お通じが出ない」と言われたとき、しばらく話を聞き、
「そうですか、じゃあ今日も出なかったら、もう一度一緒に考えましょう」といいます。
その方は、
「よかった先生に聞いてもらえて、安心した」と笑います。
そして、私はその方の心配事を職員に伝えます。
(職員はもちろんお通じが何日出てないなんて把握しているので、私の話なんかとっくに知っていますが。)
その入居者は、
「お通じがでない」という困りごとを今聞いてほしいのです。
そして私にその「役」が当てはめられたのです。
私はその「役」を演じ切ります。
その人は「真実を教えてくれ」「私の見当識を戻してくれ」なんて
その時は考えていないでしょう。
「就職決まったの?」と聞いてくる方もそうです。
孫か甥っ子の就職がよほど心配だったのでしょう。
その方に、
「私は違うので、今度聞いておきますね」といえば
悩みは続くことになります。
孫か甥っ子になりきり
「決まりましたよ!ご心配かけました!」と答えれば。
「よかったよぉ、心配してたんだから」と安心し、笑顔になります。
何日も、何回も繰り返している会話ですが、
何日も、何回も繰り返し
何度でも笑顔にします。
「正しい対応」なんて正解があるのかわかりません。
ただ、その笑顔は介護の仕事を長く続けさせてくれている理由の一つです。
だから私は毎日、入居者の方のもとに行き、
毎日、「誰か」になりきり、演じ切るのです。