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答えではなく、問いを持ち帰ったタイでの学び【施設長小野】
先日、以前からご縁をいただいているJICA草の根技術協力事業「SMART&STRONGプロジェクト」が、
WHO(世界保健機関)の世界会議で事例紹介されるという報告をいただきました。
私も特別養護老人ホームの立場から、わずかながら関わらせていただいていますが、
タイと日本の学び合いから始まった取り組みが世界に紹介されたことを大変嬉しく思いました。
その報告を聞いた時、昨年タイを訪問した際に感じたことが自然と思い浮かびました。

タイでは行政関係者、医療関係者、大学関係者、地域住民、ボランティアなど、本当に多くの方々からお話を伺う機会がありました。
当時の私は、「タイから何を学べるだろう」「日本の地域づくりや介護に活かせるヒントはないだろうか」と考えながら話を聞いていました。
しかし今振り返ると、私が見聞きしたことは、その国や社会の一部分に過ぎなかったのだと思います。
目の前で語られる言葉も、その人の立場や経験、その人が置かれている環境の中から語られたものです。
同じ社会を見ていても、行政の立場と住民の立場では見えている景色が違います。
医療関係者とボランティアでは、大切にしていることも異なります。
だからこそ、語られた内容そのものだけでなく、
「なぜその人はそう考えるのだろう」「その言葉はどこから生まれているのだろう」
と考えながら耳を傾けることが大切なのだと感じました。
タイ訪問中、私は何度も「社会とは何だろう」と考えていました。
制度が社会を支えているのか。
人と人とのつながりが社会を支えているのか。
行政なのか、地域なのか。
家族なのか。
様々な立場の方の話を聞けば聞くほど、一つの答えにたどり着くことはできませんでした。
むしろ、それぞれの意見にはそれぞれの正しさがあり、ときには互いに矛盾しているようにも感じました。
けれど今は、その複雑さこそが社会なのだと思っています。
振り返ると、タイで得たものは明確な答えや解決策ではありませんでした。
むしろ、「問い」だったように思います。
社会とは何か。
支え合いとは何か。
地域とは何か。
高齢になっても安心して暮らせる社会とはどのようなものなのか。
そしてもう一つ、自分自身についても気づかされました。
私たちは誰もが、自分の経験や知識、価値観を通して物事を理解しています。
完全に客観的な立場で社会を見ることはできません。
だからこそ、自分はどのような立場から物事を見ているのか、
自分にはどのような思い込みや偏りがあるのかを自覚することが大切なのだと思います。
WHO世界会議で事例紹介されることは、大変光栄なことです。
しかし、私自身にとってSMART&STRONGプロジェクトの価値は、何か一つの成功事例や正解を示すことではないように感じています。
異なる文化や価値観を持つ人たちと出会い、自分の当たり前を問い直し、新たな視点を得ること。
そして、答えのない問いを持ち続けながら学び続けること。
その積み重ねこそが、このプロジェクトの大きな意義なのではないでしょうか。
WHO世界会議での発表報告を聞きながら、そんなことを改めて考えた一日でした。
